成体になるとIQ知能は減じてゆく

最大の問題は、AI脳的流動性知能(IQ知能)は25歳をピークに減じてゆくということである。

それは、生物の成体にとって、IQ知能はデメリットの方が大きいということを物語っている。

「IQ知能は幼児期に特化された知能である」ともいえる。

日本では、「35歳を超えたITエンジニアは使えない」と言われている。
流動性知能が失われてゆくからである。

「無思考の記憶力」が使えなくなるから、日進月歩の速さで襲来する膨大な質量に及ぶ新しいITスキルを使いこなせなくなる。IT大国の中国では、さらに厳しく、「30歳になるとITエンジニアは職を失う」と言われている。

なぜ、30歳になると流動性知能が失われてしまうのか。

それは、環境などを見極めるための「どうして」という論理性が必要とされるからである。

これを結晶性知能という。

流動性知能は、すばやく敵や餌を認識するのには適した能力である。

だから、幼児期にこの知能を使えれば、素早く敵と餌を認識できて生存に有利に働く。

しかし、生物といえども、成体になれば、「この敵の状況はどうなっているのか。空腹なのか満腹なのか。どうしたら、この敵の攻撃をかわせるのか。どうしたら、この敵をだませるのか」などの、「どうすればよいのか。どうしてなのか」という論理的思考が求められる。

結晶性知能が発達しないと、過去の事例(データ)や肩書(プロフィール)などの「死んだ情報」に頼らざるを得なくなる。この種の人たちの存在比率は、かなりのものに達している可能性が高い。

とはいえ、どうしても「無思考の記憶」に頼ったり、必要としたりするときもある。

そのときは、どう対処すればいいのか。
その方法も書いておきたい。

一つは、全体像を把握する方法の応用だ。
もう一つは、脳の仕組みを利用する方法だ。

共に、本書にて詳細を記している。
要するに、「一瞬(30秒)で不安を消す方法」の応用編でもある。

不安を消すメカニズムは、「扁桃体と呼吸中枢」の関係に見出されるが、記憶は、「海馬と扁桃体」の関係において理解すべきものとなる。

扁桃体は危機管理の中枢機能であり、それはまた喜怒哀楽の感情の発生源である。

そして、扁桃体と海馬は隣接している。
海馬はHDDのような長期記憶媒体である。

だから、激怒したときなどは、危機管理機能が作動して、過去の危機データ(つまり、怒ったときの嫌な思い出)が取りだされてしまう。

このようなメカニズムを記憶のときに用いる。
すなわち、「感情豊かに記憶した方が長期記憶化されやすい」ということである。

なので、記憶は楽しくやらねばならないし、日常生活でもワクワクしたり、興奮したりの豊かな感情を育む必要がある。逆にいえば、「うう、辛い。楽しくない。でも勉強しなければ」というネガティブな気持ちでやっていると、記憶の身につく率が低くなるということである。

いずれにしても、成人なのに、幼児型のIQ能力に頼っていては、「どうすればいいのか。どうするべきなのか」という判断ができずに「思考停止状態」に追い込まれてしまう。だから、とりあえず、何でも新しい事柄は拒絶する方向に進んでしまう。

前頭葉(ぜんとうよう)が委縮してしまうと必ず、このように思考が硬直化してしまう。

前頭葉(新哺乳類脳)は、「旧哺乳類脳の感情」を抑制する機能として発達した脳の部位である。だから、ここが劣化してしまうと感情のコントロールが効きにくくなる。

頭の悪い人、高齢に伴って前頭葉が委縮してしまった人たちが感情暴走型になってしまうのは、このような理由があるからで、人格的(精神的)な問題ではない。

そして、使える知能はもはや劣化を極めているはずのIQ知能となる。

「麒麟(きりん)も老いては駑馬(どば)に劣る」という。
駑馬(どば)とは「歩みののろい馬」という意味である。